1.5℃の約束を守るためにできること – 未利用熱の活用でカーボンニュートラルを目指す
使えるはずのエネルギー 約6割は捨てられている
- 2022.07.27
- 大型冷熱システム
- 日本
2022年6月17日、国連広報センターは国連とSDGメディア・コンパクト加盟社有志100社以上による、日本発、世界で初めてとなる共同キャンペーン「1.5℃の約束」を発表しました。「1.5℃の約束」は深刻化する気候変動や気温上昇を止めるために、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5℃に抑えることを目標に掲げています。既に産業革命前と比べて1.1℃上昇しており、目標を達成するためには2050年頃までにCO2の排出量を実質ゼロに、また温室効果ガスも大幅に削減する必要があると言われています。そのために今、日本を含む多くの国がカーボンニュートラル達成に向けた取り組みを実施しています。
カーボンニュートラルが今必要な理由 |
昨年8月に発表されたIPCC(世界気象機関及び国連環境計画により1988年に設立された政府間組織)が発表した報告書「気候変動2021:自然科学的根拠」では、既に1.1℃上昇している世界の平均気温は、人間活動による温室効果ガスの排出に起因するという分析結果が報告されました。
さらに世界気象機関(WMO)が2022年5月に発表した報告書では、2026年までの5年の間に気温上昇が1.5℃を超える可能性は50%近くと発表しました。
日本国内でも気象庁が2022年1月に発表したデータでは、日本の平均気温がさまざまな変動を繰り返しながら上昇していることがわかります。長期的に見ると、100年あたり1.28℃の割合で上昇しています。
(出典:気象庁 日本の平均気温偏差)
このように深刻化する気候変動を阻止するため、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする『カーボンニュートラル』の取り組みが進んでいます。
カーボンニュートラルとは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量から、植林、森林などによる呼吸量を差し引いて、排出量の合計をゼロにする取り組みのことです。
カーボンニュートラルの取り組みの一つ ~未利用熱の活用とは?~ |
カーボンニュ
カーボンニュートラルの取り組みの一つとして、未利用熱の活用があります。未利用熱は有効活用できる可能性があるにも関わらず、捨てられてしまうエネルギーのことで、国内で消費される1次エネルギーの約6割が未利用熱のまま捨てられていると言われています。
私たちはエネルギーを、熱や光などのさまざまな力に変換して利用しています。エネルギーが変換される過程で利用されないまま廃熱として放出されてしまう未利用熱を有効的に再利用・変換利用することで、産業分野や運搬分野などあらゆる分野において更なる省エネ化を目指すことができます。
一次エネルギーからエネルギーの最終消費に至るまでに生じる未利用熱エネルギーの比率
(出典:NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)NEDO Web Magazine/資源エネルギー庁令和2年度[2020年度]エネルギー需給実績[速報値]を基にNEDOが作成)
「エネルギーを熱に変換する」とは? |
エネルギーとは、「仕事をすることができる能力」と言われており、何かを動かしたり、温めたり、明るくしたりすることができます。このようなエネルギーは、主に熱エネルギーや光エネルギー、電気エネルギー、運動エネルギーなどに変換され、私たちの日常を支えています。私たちが使うエネルギーは、エネルギー資源である石油、天然ガス、太陽光などの1次エネルギーから、使いやすい形に変換された2次エネルギーです。
1次エネルギーから2次エネルギーの変換は、発電、精製、乾留などといったさまざまな加工を行なうことで変換されています。また、エネルギーは他のエネルギーに変換することも可能です。
わたしたちのくらしとエネルギー
(出典:経済産業省 資源エネルギー庁)
地球を守るために欠かせない「コジェネ」とは? |
コージェネレーション(熱電併給)は、天然ガス、石油、LPガス等を燃料として、エンジン、タービン、燃料電池等の方式により発電し、その際に生じる廃熱も同時に回収するシステムです。
回収した廃熱は、蒸気や温水として、工場の熱源、冷暖房・給湯などに利用でき、熱と電気を無駄なく利用できれば、燃料が本来持っているエネルギーの約75~80%と、高い総合エネルギー効率が実現可能です。
(出典:コジェネについて 経済産業省 資源エネルギー庁)
熱を有効利用することができるコジェネの導入は、企業全体としても省エネやCO2の削減、また経済的にも大きな効果が期待されています。
現在、欧州では温水などの熱エネルギーの共有ネットワークや、コジェネが発達しており、既に未利用熱の需要や関心が高まっています。日本でもカーボンニュートラルの取り組みの一つとして、未利用熱の需要が今後拡大すると予測されます。
未利用熱の変換ができる一重効用ダブルリフト吸収冷凍機「DXS」 |
吸収式冷凍機は、フロンガスなどを用いずに主に水を冷媒として冷水を作り出し、それを冷房などに利用する装置です。「蒸発」「吸収」「再生」「凝縮」、そしてまた「蒸発」というサイクルを繰り返して冷水を作ります。再生器の熱源として、温水の形で廃熱が利用できます。
従来の吸収式冷凍機では、90℃程度の温水(排熱)を70℃程度までしか使うことができず、未利用熱の活用に制限がありました。ですが、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)プロジェクト「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」(JPNP15007)による技術開発の成果により、温水の出口温度を70℃から約55℃まで低減して元の温水と約35℃の温度差とし、より多くの廃熱を回収・利用できるようになりました。
コージェネ大賞2017特別賞を受賞した「DXSシリーズ」
■ポイント
・コンパクトな筐体で高いエネルギー効率
・従来の機械より約2倍の温度差で熱回収が可能なため、さらなる未利用熱の活用促進が期待される
海外の複数の国で採用されるなど、これまで、ドイツのオフィスビルと機械工場に2件、ポーランドの病院に1件、合計5台が納入され稼働中で、そしてスロバキアの化学系繊維工場で1件を受注し、低温未利用熱の活用手段として、世界中で期待されています。(2021年10月現在)
(出典:NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)工場に眠る未利用熱のさらなる有効活用へ 一重効用ダブルリフト吸収冷凍機の実用化 | NEDO | 実用化ドキュメント)